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2010/03/11

Neo Bistro

最近のパリで話題になっているのが
「ネオ ビストロ」。

今までのフランスでの「ビストロ」といえば
皆で飲みながら安く食事ができ
気軽に行けるけど、料理はいたってシンプル。
というか料理に期待はできない場所であった。
日本の大衆居酒屋のようなものだ。
きちんとした料理が食べたい時は
お金を出して高級レストランに行くしかなく
星付きレストランになると出費は2倍、3倍…と
限りなく上がってしまう。
特に美食に興味がない一般のフランス人なら
星付きレストランなんて行った事がない人だって
少なくないし、別に行きたいとも思っていないようだ。

そんな中、サービス、お店はビストロでありながら
一流シェフが一流の料理を出す新しい形態が増えているらしい。
そのようなレストランを「ビストロ・シック」とか
「ビストロ」と「ガストロノミー(美食)」をあわせて
「ビストロノミー」などと呼んでいる。
このスタイルはブームになる前から、まさに
私達が目指していたものでもある。

私と夫はフランスでいわゆる「有名高級星付きレストラン」で
数年各地で働いてきた。
サービスが始まると厨房はいつもピリピリしていた。
なぜなら常に微塵の狂いもない「完璧」な料理と
「完璧」なサービスを要求されるのである。
それは一重に見えもしない「星」のため。
ミシュランの抜き打ちの調査員らしき人が現れると
その緊張感は頂点に達する。
そこでミスでもしようものなら一大事だ。
気が短いシェフだと恐ろしい言葉で怒鳴りちらし
お皿が宙に舞ったことも何度か見てきた。
料理が好きで作るのが楽しかったから始めたはずの
この仕事が、数年の「星付きレストラン」での経験で
「仕事=過剰なストレス」
というものに変わってしまった。

しかしそれでも学んだことは多く
そのテクニックなしにはやっぱり一流の料理は
作れないし、技術があってこそ応用ができるのだ。
料理は好きだけどあのストレスの中では仕事が
出来ない、と悟った私達はそのころから
漠然と「2人で出来るくらいの小さなレストランで
安くて美味しい料理をだせたら」と思い始めていた。

フランスで働いていた同僚達は世界各地で
有名レストランのシェフとして活躍している。
夫もとんとん拍子で出世し、24歳という異例の若さで
星付きレストランの「スゴンド(セカンド)」という
事実上の厨房のシェフである大役のポストに登りつめた。
(有名シェフは通常厨房以外のところで多忙であるから)
私も未だ男性社会であるこの独特の世界で
常に唯一の女性社員として何とかやってきて
スゴンドの下の「シェフ ド パルティ」という
一部門を全て取り仕切るポストを務めた。
夫が部長で私が課長のようなものだ。
しかし女性で外国人というプレッシャーは大きく
(ちやほやされたのは研修生の時だけ)
スタッフ、研修生、材料、仕込み、サービスなど全ての管理と
常にシェフに対して新しいアイデアの提案。
精神的にも肉体的にも毎日120%の日々であった。

そして私達はあえてその「エリートコース」から外れた。
というより、その常にまとわりつくストレスの中で
やっていける性格ではなかった。
先日知人に頂いた「パリのネオ・ビストロ」という本を読んで
そのシェフたちも私達と同じであるのを知って
勇気づけられた。

今の経済危機で倒産や職を失ったり、条件が悪くなったりと
大変な目にあった人も多かっただろうが
個人的には「本当に良いものを見直す」良い機会ではないかと思う。
今まではサービス過剰、競争で周りが見えなくなっていた。
しかし今日、高すぎるものにはお金を使わなくなった。
(ごく一部のお金持ちは別として)
「無駄使いをしない」「無駄なものは省く」
「良いものをつくりできるだけ安く提供する」
という当たり前の原点に戻っただけの話である。

フランス料理にしてみれば、ミシュランの星や点が全てで
値段はどんどん上がっていっていた。
そして現場では常に新しい発想を求められていた。
スペインのレストラン「エル・ブジ」から始まった
科学実験みたいな料理や、
日本ブームも入って懐石みたいな料理など
近年のフランス料理はめまぐるしく変化し
どの料理雑誌をみても皆同じような
料理を作るようになっていた。
本当の伝統的なフランス料理はどこにいってしまったのだろう?
と常に疑問に思っていた。
日本でフランス料理というと
「高級で重い」イメージがあると思うけど
本来は家庭料理が主である。
(確かにその後のチーズ、デザートで
 カロリーアップすると思うのだけど)
伝統を守りつつ、一流テクニックと独自の感覚で現代風に
アレンジしたものが「ネオ・ビストロ」の柱となっている。
そしてお客さんもそれを求めて食べに来る。
サービスが高級レストランのように完璧でなくても
料理の盛り付けがシンプルでも美味しかったらいいのだ。
値段も特別安くはないけれど、一般人でも
ま、たまにはこれくらい出そうか、
と思える価格である。

まさに時代が求め、来るべきしてきた
「ネオ・ビストロブーム」
だと思っている。
そして私達もそんなお店を作ることが
今の大きな目標だ。
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